小規模農家を支える平和フェローのたたかい
2011年、香港出身のスペンサー・レオンさんは、有機農法による種苗事業を立ち上げるためタイに渡りました。有機食品の需要は拡大していくとの期待がありました。しかし、単にお金を稼ぐのではなく、何か良いことをしたいという思いもあったのです。
そこでレオンさんは、ロータリー平和フェローシップを申請し、2013年にチュラロンコーン大学(タイ)にあるロータリー平和センターのフェローになりました。
研究を通じて有機農業が平和構築のためになると確信したレオンさんは、コース修了後、Go Organicsを立ち上げました。
Go Organicsは、「小規模農家の経済的安定が平和につながる」という信念のもと、農家の生産性と持続可能性の向上を目指しています。
世界の多くの地域で、小規模農家は有機食品の世界的市場とつながるための知識をもっていません。そこでGo Organicsは、小規模農家の市場を改善し、シンプルで費用対効果の高い方法を導入するための支援を行っています。
消費者と生産者の距離を縮める
その一例が、生産日や賞味期限などがコード化されたラベルの導入です。消費者は、スマホでラベルをスキャンすることで、購入する食品と栽培農家に関する詳しい情報を得ることができます。
「消費者と生産者の距離を縮めたい」と、レオンさんは話します。食材がどこから来たのかを知ることで、消費者は農家の精一杯の努力を知り、それを応援するようになります。
また、Go Organicsは、手頃な価格の低温貯蔵庫を提供しています。これにより農家は作物の鮮度を最大10日間保つことができ、販売の機会を増やすことができます。農家は小口融資(マイクロファイナンス)を利用して低温貯蔵庫を購入することができ、Go Organicsは一定量の農産物販売を保証しています。
Go Organicsでは、カリフォルニア大学デービス校と協力して、地元で手に入るものを使った太陽熱乾燥機など、農産物を乾燥させる技術を導入しています。黒い布を敷いたテーブルとプラスチックを巻いた煙突で空気のトンネルを作り、くだもの、野菜、肉、魚、コーヒー豆などの農産物を乾燥させることができます。また、「DryCard」と呼ばれる安価な検査機器を使って、農作物の水分量を確認し、カビの発生を防ぐことができます。
カリフォルニア大学デービス校のアンソニー・ファンさんは次のように話します。「今日、食の安全と食料安全保障が大きな問題となっており、生産された食料の3分の1が無駄になっているとの報告があります」
その一方で、増え続ける人口を養うために、世界の食糧生産量を大幅に増やす必要があります。そのためGo Organicsでは、食品を適切に乾燥させ、安全に包装する「ドライチェーン」を支援しています。
「レオンさんが行っていることは本当に重要なことです。多くの農家は支援や情報を得ておらず、問題に対する認識すらないからです」とファンさんは話します。
DryCardは、ラミネート紙に塩化コバルトの湿度表示機能が付いたもので、製品の水分を測定することができます。これを農産物と一緒に密閉された容器に入れ、表示機能がピンク色を示せば水分過多、青色なら問題なしとなります。
「今のところ、大半の農家は製品を噛んだり、手で握って音を聞いたりして乾燥度を調べています。これでは食品の安全性を正確に判断できません」とファンさんは話します。
デジタル式の水分計もありますが、電気または電池が必要で、小規模農家では利用できない場合があります。一方、DryCardは11~27円で製造でき、何度でも再利用できます。農産物や食品の検査だけでなく、保管中の種子の水分量をモニタリングして、健全な発芽を促すことで収穫量の向上につなげることも可能です。
中国や企業に頼らない方法で
Go Organicsは、障害者支援団体と協力してラベルを製造しています。大企業と競うのは困難であることを認識しつつ、レオンさんは次のように話します。
「中国で製造したり、普通の工場で低コストで作ってもらったりすることもできます。しかし、それはGo Organicsの使命ではありません。これまでとは違うことをしたい。人びとが近くの農場から直接手に入れた地元食材を食べられるような流通ネットワークを作りたいのです」。
世界の食料の約80%を生産する小規模農家は、世界の5億7千万の農家のうち90%を占めています。
「小規模農家の生活水準を持続可能な方法で向上させることができれば、世界全体に大きな変化をもたらすことができるでしょう」
— Nikki Kallio